野生ランへの思い

  • 2021年12月2日
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2022年1月15日(土)〜3月27日(日)の間に、練馬区立牧野記念庭園で川平ファームの代表である橋爪雅彦の企画展開催が決まりました。そういえば、パッションフルーツ農家もしていますが本来は植物精密画の画家だったんですよね。

企画展が決まり、原画の整理や準備に追われている社長より「野生ラン」への思いについて語っていただきました。

すべては野生ランのイラストからはじまった

思い返すと、石垣島へ移住したきっかけは、東京の出版社から野生ランのイラストを依頼されたのがきっかけでした。

1981年誠文堂新光社の羽根井女史からの依頼で、始めて荻窪四面道にある東京大学の名誉教授前川文夫先生宅の門をくぐった事から始まります。その時始めて「コカゲラン」という30cm程の葉の無い小さな野生ランに出会いました。

当時学研の図鑑や北隆館の原色牧野植物図鑑などの仕事をしており、国立に住んでいた私は時折植物画の大家太田洋愛さんを見かけることがありましたが、まさかその後釜として「原色日本のラン」続刊を任されるとは夢にも思っていませんでした。

当初は、羽根井さんから連絡が来ると荻窪へ飛んで行き入手したランを預かって描くことからスタートしましたが、やがて「原色日本のラン」未記載のランを描きに北海道から南西諸島まで情報を元に現地へ飛ぶことになります。

当時私はデザイン企画事務所を経営していましたが、連絡が来ると旅支度をして羽根井女史、野生ランの写真家神田淳氏との三人旅が続きました。

数少ない情報を元に現地へ赴き、更に数少ない情報で山の中を探し回る旅が続きます。基本的には現地でスケッチをして花まで彩色し、宿へ戻ってくることが多いのですが、ランを見つけると先ず神田さんが撮影をしその後私の作業になります。

情報では「花が咲いたと」あっても、現地では虫が食ってしまったり散ってしまった事もあり、その場合は翌年再挑戦になります。

北海道の北見での「カラフトアツモリソウ」を描くときは、4月なのに雪が舞う中凍えながらの作業でした。

種子島では巨木に巻き付く「ツルツチアケビ」を描くために4m程の木に登り、雨の中傘をさしての作業でした。

小笠原母島ではクリスマスの頃に毎日民宿から2時間以上かけてランを求めて歩き、滞在1週間の最後の日に朽木の傍らに落ち葉に埋もれたような「ムニンヤツシロラン」を見つけ、帰路の船中で描いたことを思い出します。

そんなことが7年ほど続きましたが、南西諸島の現地からの情報が非常に少なく、100点ほどを描いた所で作業の進捗が止まってしまいました。

前川先生の体長が次第に悪くなってきて、このくらいで出版できないかとお話もありましたが、そうこうするうちに先生が旅立たれてしまいました。跡を継いで筑波実験植物園の橋本保さんが原稿書きを引継、作業は続きました。

そして石垣島への移住

作業は継続したものの、南西諸島の残りのランの情報が少なく、先の見通しが立ちにくいことと、長女の喘息が酷くなったことも併せて、思い切って事務所を若い人に任せて家族での移住を決意しました。

移住して2年ほど経ったときに出版社の経営状態が悪くなり、この企画を続けることが出来ない旨の通知が来ました。そのため筑波に預けていた絵はすべて戻って来ましたが、山中での描きやすさを考えイラストボードで描いた水彩画の多くが、湿気のためか黴が生えている物が多くあり大変ショックを受けました。通常の水彩画用紙に書いた物は黴の発生は殆ど見られません。

ただ、出版がストップしてしまいましたが、先々のことを考えスキャナーで読み取りデジタル保存をしてお蔵入りすることになります。

この間、北海道から南アルプス、小笠原、四国、九州などほぼ全国を回りました。屋久島は十数回訪れています。

その屋久島で出会ったのがパッションフルーツです。

台風で蚕糸試験場の管理小屋に3日程閉じ込められ、台風通過後に庭一面に落ちていた紫の実がパッションとの出会いです。パカッと割って啜った果汁の香りと甘酸っぱい味は強烈な印象をもたらせました。2度目の出会いは西表島の山中へ野生ランを求めて通っているとき、一日山中を歩き回り帰路林道を脱水状態で戻ってくると、大富集落が見える頃にあの独特の香りが漂ってきて、野生化した黄色い実が渇いた喉を潤してくれました。

出版の予定は無くなってしまったのですが、元々東京の農業学校を出た私は、絵は続けながら思い切って農業への道を歩むことになります。

有機栽培でのパッションフルーツの生産と加工をしながら、直売店に絵を何点か展示しているのですが、植物関係の方などから是非纏めて本にすべきだとのお声を時折戴いています。

既に絶滅した物も数点有り、貴重な財産だという意識も有り、暇を見つけPCの画面で黴を取り去る作業を続けていました。これは思いの外大変な作業でしたが、1年ほどかけて一枚一枚描いたときを思い出しながらの作業で、描いたときと同様の絵に仕上がってきたと思います。一枚一枚にその時々の物語がありました。

そして今回、高校の先輩の関係で東京大泉学園にある「牧野記念庭園記念館」で企画展として展示させていただく運びとなりました。今回は、およそ60点ほどを石垣島から持参して展示する予定で準備中です。

会期も2ヶ月以上と長いので出来るだけ多くの方に観賞して戴ければと思います。

実は、これを機に図録として出版することも考えています。どのような形で出版するべきなのか、検討しながら企画展の際には何かご案内できる段階まで進めればと考えています。

練馬区立
牧野記念庭園
住所:東京都練馬区東大泉6丁目34番4号
日にち:
2022年1月15日〜3月27日
休館日:毎週火曜日
時間:午前9時半〜午後4時半

>川平ファーム オンラインストア

川平ファーム オンラインストア

川平ファーム直営のオンラインストアではパッションフルーツ製品をはじめとする
オリジナルブランド製品等を購入していただけます。
石垣島より直送で新鮮な製品をお届けします。